2003年のアルテミアシストの需給動向 太平洋貿易株式会社 浅田 雅宏
米国ユタ州グレートソルトレーク湖(以下、GSLと略記)におけるアルテミアシストの採取は、今年も10月1日から解禁となり、順調に行われているものと思っていました。ところが、伝わえられる情報によると、例年とは若干様子の違う感もあります。GSLにおける今期のアルテミアシスト(いわゆるブラインシュリンプエッグ)の採取状況や現地からの情報を踏まえて、今後の需給動向を予想してみます。
GSLのこれまでの状況
2002年10月31日付けで、DWR*からアルテミア採取業者宛に通知が出されています。それによる「GSL南湖で10月30日に採取した湖水1L当たりの分析値(個数/L)」は表1の通りです。そして、以下のようなコメントが添えられています。
「残秋における生殖の見込みは立っていない。天候のせいで湖の温度は10℃近くまでになっており、実験結果によると、こういった場合は大体生殖が遅れてくる。
数値が示すように、すべての成長段階においてアルテミアの数が少なくなっている。ほとんどの採取業者が、今年のシストの収穫が昨年までよりも困難であると報告している。天候においても収穫においても望ましい状況ではない。10月30日までの収穫量は、GSL湖面から7,816,966ポンド、GSL浜辺で6,563,343ポンド、合計14,380,309ポンド(6,529t)」。
DWRが10月1日に採取許可をしたあとで、資源保護のためにアルテミアシストの採取を禁止する場合の基準値は、「シストの数が1L当たり20個以下」ですから、当面は採捕が休止されることはないと思われます。
その一方で、ある採取業者は「取った卵には親エビやその死骸が多く、卵の収率が悪い。また、最近になって、卵が水面に浮かび上がらず、湖底に沈んでいるようで、採取の機会がない。小型機で湖面を飛んで卵のすじ状の塊を探すのだが、それがほとんど見られなくなっている」とコメントしています。実際、現時点(11月12日)では採取業者はほとんど漁を行っていないらしく、湖の状況が回復するのを待っているようです。
11月11日時点でのDWRの最新発表では、「収穫量は、GSL湖面から8,064,225ポンド,GSL浜辺で7,037,676ポンド、その他16,000ポンド、合計15,117,901ポンド(6,864t)。湖水1L当たりのシスト数は141個」でした。この数字から判断する限り、昨年同様の豊漁のようですが、問題は精製後の収率でしょう。昨年も収穫量は多かったのですが、収率が悪く、とくに日本向けの最上級シストが少なかったという事実があります。すなわち、現在日本で流通している「ふ化率90%以上」のシストのほとんどは一昨年(2000年秋期)採取のものです。
今後の見通し
上記のような状況下、産地からの提示価格は10月下旬以降、上昇基調にあります。また、世界的な需給状況をみても、
1.中国では国内需要の伸びから国内産のアルテミアが不足し、輸出国から輸入国に転じている
2.CIS(旧ソ連)産アルテミアは生息地域の環境変化から年々生産量が減少を続けている
3.日本向けの最上級のGSL産シストの収率の悪さが予想される
―等々、価格上昇につながる要因が多いのも事実です。
不景気でデフレ進行中の日本の需要者にとっては信じたくない展開ですが、天然資源では豊作不作による価格変動は避けられません。当社としては今後とも情報を正確に把握し、需要家の皆様への影響を最小限に留めていきたいと考えています。
参考までに1990年~2002年9月までの日本の輸入量を(表2)にまとめました。
* State of Utah Department of Natural Resources, Division of Wildlife Resources
<この文章は湊文社アクアネット2002.12月号から転載しました>