平成21年8月20日
特定非営利活動法人 ACN
理事長 田嶋 猛
このたびは第13回ACNフォーラムに、ご参加いただき誠にありがとうございます。
私の仕事柄海外に行く機会が多々あり、刺身を食べることもしばしばあります。1988年ソウルオリンピック当時の韓国では刺身を食べたいときは、先ず活魚(海産魚)を注文し、その魚が確かに刺身に捌かれるのを確認してから席に着くことがありました。また、1995年中国浙江省のトラフグ養殖場に行った時は、現地の人から「日本人の私は刺身を食べたい筈だ」と気遣っていただき「淡水魚の活魚を刺身」にしていただきましたが、箸が進まずに参りました。その後、出張先が広がるにつれて東南アジアの各国やギリシャ、フランス、スペイン、モロッコ、アメリカ、そして南米のブラジル、アルゼンチンまで行きましたが、韓国を除けばどの国の食事の蛋白源も肉類が中心で日本ほど魚介類を食べる国はありません。FAO(国連食糧農業機関)の2002年の統計でも日韓両国は1人当たりの水産物消費量(約60kg/年)は1位、2位で世界平均(16kg/年)の約4倍食べています。当然のことですが日韓両国では水産物の料理が多種多様に渡っています。そしてその中で海産養殖魚介類は刺身材料として大変重要な地位を占めています。ところが、日本国内ではミニバブルと言われた、ここ数年間も国内の養殖魚介類の浜値は下落傾向が続き、さらに昨年のリーマンショックによる不景気と韓国Won下落のダブルパンチで日本の海産養殖業界は「泣きっ面に蜂」状況になっています。日本国内では人口減少という大きな流れを背景に、食料品を含めて物価の下落傾向が続いています。こういう時代にあって嗜好品である養殖魚の刺身も安くないと売れないのでしょうか? 私は福岡市の某デパートの地下1階の魚売り場が好きで時々買い物に行きます。その店は対面販売で従業員は10数人(調理人を含む)いて、魚の種類も豊富で10数キロの長崎県産クエや別の日には20数キロの境港の本マグロ、はたまた数キロの大分県産マナガツオを正面にディスプレーして、客足も堅調でデパ地下の魚屋独特の活気が伝わってきます。ある日の価格は奄美大島産養殖本マグロ刺身3点盛大トロ、中トロ、赤身各4切(計90g)・1,575円、マダイ、カンパチ、ヒラメ刺身盛り合わせ(産地表示無)各4切(計120g)・1,000円、長崎県産ヤリイカ70g・500円、宮城県産養殖サーモン刺身8切(90g)・500円、唐津産ウニ50g/枚・1,500円、北海道産味付イクラ醤油漬100g・1,050円と決して安くはありませんでしたが、天然物も養殖物もよく売れていました。また、近頃聞いた話では、カンパチ養殖生産量日本一の鹿児島県では、ライバル関係の生産者が個別での価格交渉をやめ、窓口を一本化して数量を背景に価格交渉することで、浜値の下落防止に効果を出しているとのことです。
メーカーが自社商品の販売価格を自分で決定できないことは、経営者にとって辛いことです。養殖業界では買い手が価格を決める時代が長く続いており、メーカーに当たる生産者もそれに甘んじてきた傾向があります。利益が出ているときはお互いハッピイでしたが、生産コスト割れの浜値が日常となった今こそ生産者は販売方法に努力し、頭を使わなければなりません。そうしなければ、生産者は激減し、いずれは流通業者も共倒れになり、最終的には一般消費者が刺身を食べることができない時代が来るでしょう。そうならないためにも生産者と流通業者が協調しなければならないと考えます。