海外トピックス「ブラジルのバイオエタノール生産工場とエタノール自動車について 」

ACNレポート(2008年9月号) 海外トピックス

太平洋貿易株式会社  田嶋 猛

ブラジルのバイオエタノール生産工場とエタノール自動車について

私は(社)福岡貿易会の設立50周年「南米経済視察団」(団員20名)の一員として、8月24日~9月5日の日程で、ブラジル(サンパウロ、リオデジャネイロ、イグアス)、アルゼンチン(ブエノスアイレス)、アメリカ(ニューヨーク)を訪問した。
ブラジルでは世界有数の航空機メーカー(エンブラエル社)やバイオエタノールメーカー(コザン社)等を訪問した。
そもそもブラジルに航空機メーカーがあることに驚いたが、日本航空(JAL)からも受注しているとのことなので、我々も近々利用することになるであろう。
ここでは紙幅の都合で、化石燃料(重油、ガソリン、天然ガス等)の代替で注目を集めているバイオエタノール生産工場について報告する。
コザン(COSAN)社は従業員43,000人、ブラジル国内に18工場とサントス港に専用ターミナルを持つ世界一の砂糖・エタノール生産会社である。工場はサトウキビ畑の中にあり全作付面積は60.5万ha、年間4,400万Tonのサトウキビを絞り、315万Tonの砂糖、157万KLのエタノール(無水&含水エタノール)を生産している。
我々一行はサンパウロから北西に180km(バスで3時間)のピラシカーバ(Piracicaba)という町にあるコスタピント(Costa Pinto)工場(写真 1)を訪問した。

余談だがピラシカーバ(Piracicaba)とは原住民の言葉で「魚の多いところ」という意味で、昼食は大きな淡水魚の輪切り炭火焼であった。
淡水魚独特の臭みは無いものの、さっぱりし過ぎて、味の方は今一つであった。
元々ブラジルにはサトウキビはなく、1532年にポルトガル人がニューギニア原産を持ち込み、品種改良を重ねて現在に至っている。我々はともすれば、アマゾンの熱帯雨林を焼き払ってサトウキビを植える光景を想像するが、そういう場所ではサトウキビは生育せず、サンパウロ州など中南部の少し痩せた丘陵地帯が、生育には適しているとのことであった。
コスタピント工場は1936年にコザン社創業時に建設された主力工場で、現在でも同社の生産及び研究開発に重要な役割を担っている。
元来は砂糖生産工場であったが、国内のエタノール需要増大と共に、砂糖生成過程で出る廃糖蜜(モラッセス:Molasses)を発酵させてエタノールを生産するため、発酵、蒸留、貯蔵設備を新設している。
副産物の絞りかす(バガス)は、発電用ボイラー燃料(写真 2)となり、余った電力は販売している。

砂糖の製造過程で出るフィルターケーキは、バガスと混ぜて発酵させ有機肥料として畑に戻し、アルコール精製過程で出る廃液(ビナス)は、加水混合して工場から200~150φmmの鉄管を連結して加圧送水して、スプリンクラーで畑に戻している。サトウキビは一度植えると年1回の刈り取りで7年間収穫できる。

案内された畑では大型機械(写真 3)での刈り取り作業と人力刈り取り作業が並行して行われていた。
人力の場合、先に邪魔になるサトウキビの枯れた下葉を焼き払うため、煙害が深刻な環境問題になっているとのことであった。
そのため今後さらに機械化を進め、2018年には下葉焼きを廃止するとのことで、サトウキビ労働者の雇用問題の発生が指摘されている。刈り取ったサトウキビは、コンテナートレーラー(写真 4)で工場に運ばれ、入口で計量、自動サンプリングされ、荷降ろし後、出口で再計量される。
ちなみに、ブラジルでの自動車燃料へのエタノール混合の歴史は、1931年の「公用車へ10%、一般車へ5%の混合、エタノール工場設備の輸入関税1年減免」政策まで遡る。
その後、国内で油田が発見されたが、基本的にはエタノールの自動車燃料への混合政策は続き、1980年には含水エタノール100%の車が発売され一気に普及した。


その後エタノールに対する優遇政策が撤廃になり、エタノール100%車は急速に衰退したが、現在では国内で生産される乗用車の90%は無水エタノールのどんな混合割合(25%が主流)でも走れるFFV(Flex Fuel Vehicle:フレックス燃料車)になっている。ブラジルでは乗用車価格はカローラクラスで400万円と高価である。
なお、コザン社はアメリカのエクソンモービル社からブラジル国内のエッソ(ESSO)ガソリンスタンド網を買収し、名実共に自動車燃料供給会社となっている。
無水エタノールの燃費はガソリンより20%劣るものの価格は1.5レアル/L(55円/L)で、ガソリンよりメリットがあるように設定されていた。

さらに、ブラジルやアメリカではアルコール混合車が普通に走っており、日本がガソリンにエタノールを僅か3%混合するために、長期間の試験をしているということはブラジル、アメリカからみれば、対応は非常に遅れていると思わざるを得ない。
自動車エンジンや供給設備(インフラ)を含めた技術的諸問題を解決するために、徒に時間をかけることは、地球温暖化対策に逆行することになると考える。

以上

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